2009.07.30
90年代前半はDTP書体の数と種類はそれほど多くありませんでした。それは印刷業界における写植機のシェアがまだ優位で、個人レベルでPC搭載のフォントを作成するツールもほとんどなかった為でした。
書体デザイナーが書体を販売するには、その試作品を写植メーカーに売り込んで書体化してもらうのが一般的なルートでした。当然業界第1位だった写研にも多くの試作書体が送付されてきました。写研からは何人かのデザイナーさんの書体が発売されています。ナカムラさん、イナダさん、その他多数おりますが、今回はナカムラさんの書体「ナカミンダ」をご紹介いたします。

ナカムラさんの書体では、既に「ナール」「ゴナ」が有名ですが、その後もナカムラさんの創作書体制作は続けられ、多くの書体を写研に提供されています。
「ナカミンダ」との出会いは入社数年目の事でした。自分は写研主催のタイプフェイスコンテストに毎回出品していましたので、常に新しい書体の創作を念頭においていました。しかし、新書体といっても奇抜で面白いだけではダメなので、既存の書体に新発想のアイデアを盛り込み、見る人に「この手があったか!」と唸らせる発想はないものかと探していました。
そんな時に課の上長の席に試作書体が無造作に置かれていました。覗きこんだところ、まさに常々考えていた新書体の条件を見事に具現化したカタチがそこにありました。新しい発想と完成度の高さ、面白さに全く脱帽でした。私は暫く食い入るように眺めていました。それが「ナカミンダ」との出会いでした。
明朝体の骨格なのにゴシックのようなエレメント。ウロコが丸く先端が垂直に切り立っている。点がスイカの種のように図案化され、ハライがバグパイプのように膨らみがありとても遊び心豊かであるが、そのすべてが効果的で面白い。社内でもとても評判の良い書体でした。展示会で配るパンフレットでは、60年代の懐かしいイメージで構成され紹介されていました。
また、写研の書体はテロメイヤーという製品でテレビのテロップ化されていますが、NHKとTBSで良く使われ、特にTBSでこの「ナカミンダ」をよく見かけることがありました。
「ナカミンダ」のネーミングは、「ナカムラさんが作ったダンディな明朝体」で「ナカミンダ」。とても親しみやすく、新しい。非常に革命的な発想の書体だと思います。
プロフィール:
N.Tada(清和堂フォント タイプデザイナー)
株式会社写研で13年間フォントデザインに携わる。石井賞タイプフェイスコンテストで2位入選。佳作2回。本蘭明朝体台湾向け字種制作、けんじ隷書仮名、各書体字種増作業、写研2000年発表の本蘭ゴシック8ファミリーの仮名デザイン(「週刊新潮」「プレジデント」「BRIO」その他で使用)、サインペン教科書体「イダサイン」企画制作、新書体制作監修・仮名開発担当など。 1989年千葉大学工学部工業意匠学科視覚情報伝達講座卒業。株式会社写研文字開発デザイン、印刷会社デザイン部門などを経る。現在、清和堂フォント タイプデザイナー。