2009.03.27
2003年春、70年の歴史を持つ株式会社写研を退社することが決まったので、在社中にはできなかった独自のフォント開発に着手しました。どの種類の書体を制作するかについては迷うところだと思いますが、私は以前から暖めていた「本文用明朝体」をまず優先に制作することにしました。
写研には本文明朝の金字塔である「本蘭明朝体」「石井明朝体」という優れた明朝体がありますが、それぞれの良さを研究、理解していくうちにそれらの間の「ほど良い使い勝手の明朝が無い」ということをかねてから感じる様になっていました。
そのようにコンセプトは比較的早い段階で明確になっていましたが、イメージを視覚的に造形化するのに試行錯誤の連続が続きました。まだ世の中に存在しないものを視覚化する時には、どの創作物の制作過程でも同じですが、あるべきイメージを漠然とした形から詳細なディティールに掘り起こす作業は、また、一番スリリングでドキドキするものであり、苦しいけれども楽しい時間です。
そうは言っても、始動時は、漢字の文字数、本格明朝の造形性、独自性の創出、と課題のハードルは高く、例えれば「シルクロードを駱駝で完走するような感じ」であります。つくづく書体の制作者は、みなさん長い旅ご苦労様という感じです。
プロフィール:
N.Tada(清和堂フォント タイプデザイナー)
株式会社写研で13年間フォントデザインに携わる。石井賞タイプフェイスコンテストで2位入選。佳作2回。本蘭明朝体台湾向け字種制作、けんじ隷書仮名、各書体字種増作業、写研2000年発表の本蘭ゴシック8ファミリーの仮名デザイン(「週刊新潮」「プレジデント」「BRIO」その他で使用)、サインペン教科書体「イダサイン」企画制作、新書体制作監修・仮名開発担当など。 1989年千葉大学工学部工業意匠学科視覚情報伝達講座卒業。株式会社写研文字開発デザイン、印刷会社デザイン部門などを経る。現在、清和堂フォント タイプデザイナー。